霧の図書館

映画・本・ゲームの感想を地道に収納するブログ。

映画『ストライト・アウタ・コンプトン』

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1980年代後半から活躍し、HIPHOP業界だけではなくアメリカ社会に大きな影響を与えた伝説的HIPHOPグループ、N.W.A。

彼らの結成から衰退とその後を描いた伝記映画です。

アメリカでもっとも治安の悪い街、コンプトンでN.W.A

コンプトンで生まれた黒人は犯罪者予備軍として常に警察から圧力をかけられ、差別されます。

現に犯罪に走る黒人が多いんですが、それは差別により劣悪な生活を強いられてるからなのかどうか、

ニワトリが先か卵が先か・・・という問題ですねー。

で、そんな街でくすぶっていた若者たち。

天才ラッパーのEazy-E

天才DJのDr.Dre

天才リリシストのIce Cube

三人の天才を抱えたN.W.Aは、黒人たちの怒りや現実を歌にすることで

瞬く間にスターへの階段を駆け上がります。

歯に衣着せぬその過激な歌詞の内容は、ゲットーだけではなく白人の青年の心もわしづかみにします。

あまりにも暴力的なため、暴動を煽っているとしてFBIからマークされたりもしますが

それでも彼らは反発し、公権力に立ち向かいます。

しかし彼らの活躍は長く続きませんでした。

マネージャーのユダヤ人ジェリーと、リーダーのEazy-Eがメンバーのギャラをチョロまかしているという疑惑があがり

Ice CubeとDr.Dreが脱退してしまします。

2人の天才を失ったことで、N.W.Aは急速に勢いを失ってしまいます。


っていうとまあジェリーとEazy-Eが悪いやつのように思えますが、

Eazy-Eはジェリーに騙されてただけですし、ジェリーもそこまで悪人とは思えません。

確かに拝金主義のユダヤ人ではありますが、

警官から不当な調査を受けるメンバーを必死に庇ったりします。

金づるのメンバーを失いたくない、というわけではなく、本当に不当な差別に怒りを露わにしてるようでした。

おそらくユダヤ人として、彼も差別された経験があるのでしょう。

確かにメンバー瓦解の原因は彼なのですが、そこまで憎みきれませんでした。


HIPHOPに興味がなくても、本作は是非見てほしい映画です。

メンバー間の人間ドラマ、メンバーの青春ドラマ、社会問題

過激で暴力的な雰囲気の中に、とても繊細な要素がうまく描かれています。

もしかしたらこの映画を見てHIPHOPに興味が出てくるかもしれません。

そうしたらぜひ彼らの曲を聴いてください。

コンプトンからやってきた彼らの言葉をよく噛みしめてください。

ゲーム『Hyper Light Drifter』

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Hyper Light Drifter - Release Trailer

Hyper Light Drifterはインディーズゲームの底力を見せつけてくれる。

ドット絵風に描かれた素晴らしいビジュアルはノスタルジックでもあるが

優れた操作性やアクションの爽快感は常に新鮮である。

このゲームの最大の魅力はプレーヤーの想像力を試すその世界観だ。

ゲーム中にコトバは一切なく、すべては簡易なイラストとムービーによって描かれる。

主人公は崩壊の憂き目にある美しい世界を旅することになるが

なぜ世界がこのような有様になったのかは、ハッキリとはわからない。

また主人公の旅の目的すらも、わずかな情報からプレーヤーが想像するほかない。

世界を滅ぼしたと思われる巨人。

謎の菱形のオブジェクト。

主人公の前に現れる黒い犬。

そして空間の歪みとともに突如として現れて主人公を虐殺する黒い影。

各地に点在する謎のモノリス

多くの謎をつなげ合わせて、プレーヤーはこの世界を理解していく必要がある。


かといってHyper Light Drifterは雰囲気だけのゲームではない。

プレーヤーの挑戦を求め、達成感を与えてくれる微妙なレベルデザインは完璧に近い。

操作方法などに説明不足な点もあり、戸惑うこともあるが

慣れれば爽快でスタイリッシュな戦闘を楽しむことができる。


今年出たゲームの中で遊ぶべき一本として、このゲームを推すことにいささかの躊躇もない。

トレーラーをみて、その世界に引き込まれたならば、後悔することはないだろう。

映画『64-ロクヨン-前編』

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昭和64年の一週間に起こった少女誘拐殺人事件、通称ロクヨン

事件を追う元刑事と、警察内部の闇を描く推理映画。


前編後編に分かれており、今回は主人公の元刑事であり現広報官の三上と記者クラブの衝突がメインです。

三上は上からの意向で、正確な情報を伝えられずに記者クラブとの間に軋轢があります。

隠蔽や保身に走る警察に対して憤り、また自己嫌悪に陥り、上層部と記者クラブの板挟みで疲弊していく三上。

そんな中、未解決であるロクヨンでも警察の隠蔽があったことを知る。

警察が隠している‘幸田メモ’とはなにか?三上は独自に調査を開始する。



ものすごく久しぶりに、邦画を見ましたねー。

俺が邦画が苦手な理由って、過剰演技なんですよね。

日常生活で絶対しないようなオーバーリアクションや、セリフ回し。

それがもう演技くさくて、苦手なんです。

演劇じゃないんだから・・・・・・。

でも今作、佐藤浩市仲村トオルなどベテラン陣ばかり・・・

もしかして大丈夫じゃね?と思い、あまり期待せずに見ました。

結果、大丈夫でした!

過剰演出ほとんどなし!

なんだ、やればできるじゃないですか。

綾野剛も結構自然だったと思います。


あとテロップなんかも最小限に抑えてて

邦画にありがちな説明過多

「お前らこんくらい説明しないと話わからないだろ?」みたいなのもありませんでした。

かと言って解りにくいということはなく、例えば過去と現在の切り替えも上手く映像で表現できていました。

これも高評価。

そして記者クラブとの衝突と警察内部の腐敗という地味な話も

三上の家族問題などと絡めて退屈せず観れます。


つまり面白いです!

かなり待値低かったので、その分面白さの反動があったのかもしれません。


どうかな?と思った点は・・・

瑛太ですね。

彼の演技は・・・やっぱり瑛太でした。うん。


あと、三上が感情をあらわにするシーン。

「なにが〜だ!!」
って露骨に自分の感情を口で説明してくれます。

なんて親切なんでしょうね。

たしかにここの三上の感情は読み取るの難しいかもしれませんが

佐藤浩市の演技で全然表現できてたと思います。

わざわざ口に出すことありません。

バーで飲んでるシーンもしかり。

せっかく極端な説明を省いてるんだから、もっと観客の情報リテラシーを信じてほしいです。

映画『ズートピア』

 

 

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肉食動物も、草食動物もともに暮らす街ズートピアを舞台にしたディズニーアニメーション。

正義感の強いウサギのホップスは、ウサギ初の警官となってズートピアに配属される。

しかしそこで待っていたのは、思い描いていた理想とは違った現実・・・・・・

そんな中、彼女はある事件解決のために詐欺師のキツネ、ニックと手を組むこととなる。



この映画のメインテーマは、世界を変えるより自分を変えよう。そうすれば世界は変わるということだと思いますが

裏テーマは差別です。

建前では肉食動物と草食動物が仲良くくらしているズートピアですが

実際にはそれほど仲良くありません。

ホップスはウサギというだけでナメられますし、ニックはキツネというだけで疑惑の目を向けられています。

種族で差別するなんてひどい!

と思うかもしれませんが、わたしたちはどうでしょうか。

登場人物に、警察署長のボゴ署長という水牛がいます。

署長は新米警官のホップスにつまらない任務を与えたりして、不当な扱いをします。

こいつ差別主義者か、酷いキャラクターだなという印象を観客は抱きます。


でも物語が進むにつれて、だんだんとわかってきます。

署長は別にホップスがウサギだから差別しているわけではないということに。

彼はただ警察として厳しくしているだけなのだと。

そこで気づきます。

あれ?じゃあなんで俺たちはホップスが差別を受けているように見えたんだ?

そうです。俺が気づかないうちに、ホップスを差別していたからです。

なにか適当な理由さえあれば、わたしたちはいつでも差別する側にまわるのです。

この感覚どこかで・・・


そう!『第9地区』です。

あの映画でも、うわこんなエビども差別されても仕方ないな・・・・・・と思ってしまいました。

あそこから何も成長していない俺。


そしてそんな中、ニックの言葉が胸に刺さります。

「もう慣れたしな」

差別をなくすというのは、差別されることに慣れさせることではありません。

そしてニックは、差別はなくならないと思い、世界を見限りました。

一方でホップスは、自分を変えて見返してやろうとしました。

また、黒幕のあいつは自分ではなく世界を変えようとしました。


ホップスのように生きるのは難しいでしょうが

差別される側が立ち向かわないと、差別はなくならないんですよねえ。

しかも、お前は差別される側なんだから頑張れっていうのが、すでに差別ですよね。

差別しているつもりのない差別は、どこで生まれるか解りません・・・

ボゴ署長のように平等に接したいものです。


まあそんな難しことは置いておいて、ズートピアおすすめです。